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(9)途切れた系統樹とその価値について


マスター(女)、マスターの双子の妹、妹のKAITO=カイちゃん表記(頭が薄紫)
これの続き


かちゃり、かちゃりと何かがぶつかる音がして俺の意識は急速に現実世界に引き戻されていった。ソファから身を起こすと食卓の上に大きな木箱を乗せてマスターが何か作業をしているのが目に入った。

「それなんですか?」
これはカイトの常套文句だ。外界に興味を持ち始めた子供の様に質問を繰り返す。それを悪い事だと言いたい訳ではなく、むしろ興味深いと思う。
「大学の時の先輩が掘った化石。削って同定してくれって送ってきた。」
マスターは木の箱の中から手のひら大の鉱物を一つ取りだして断面をカイトに見える様に向けた。ああ、それなら見た事がある。カイトは過去に読んだマスターの膨大な書籍の中から該当すると思われる単語を咄嗟に口にする。
「エディアカラ生物群!」
「違います。」
ぴしゃりと間髪入れずに答えたマスターにカイトは口を窄めると正解を求めた。
「三葉虫だよ、先カンブリア時代には生息してない。」
マスターがぱらぱらと化石から砂を払う度にもわもわと部屋の中に土っぽい埃が舞う。
「こんなのでも、羨ましいの?」
顔の横で化石を軽く振りながらマスターはカイトに尋ねる。羨ましい、とはつまり、カイトが抱いている生命体への羨望の事を指す。
今は鉱物化した黒光りするそれを見ても、カイトは眼球の後ろが引っ張られるような、急に泣き出したくなるような、そんな感じがするのだ。作られた人形と生まれてきた命のどっちに価値があるかなんて。
ぱん、とマスターが手の砂を払ってカイトの頬に手を添えた。マスターの手はいつだってカイトより冷たい。ひんやりとした手の平に彼女の優しさをカイトは感じ取る。
「私も貴方も誰かに望まれて生まれてきてる。それはとても幸せな事じゃない?」
いつだったか上辺だけの幸せの定義を唱えたこの口でカイトは返事をする。
「マスターはお母さんとお父さんに望まれて、俺は制作会社に望まれて?」
望まれることに違いは無い。作られた自我に価値が無いなんて思わない。でも貴方と俺じゃ比べられない程度には違いがある。
「これは…」とマスターが再び手の平の上の化石をカイトの方に向ける。
「誰かに望まれて生まれてきたのかしら。貴方がさっき言ったエディアカラ動物群は完全に絶滅したと言われているけれど、過去に子孫を残さなかったから価値が無いものなのかしらね?」
少なくとも誰かに存在する事を望まれた私達は人間にとっては幸せなのよ。マスターは最後にそう呟いて作業に戻っていった。
カイトは箱の中の岩石の山を静かに眺めていた。彼らは誰にも望まれる事なくよく言われるように偶然の誘発でこの世に誕生したのだろうか。
じんわりと、幸せが胸の中に広がっていくのが分かった。いつかの言葉に偽りは無かったけれどきっと今初めて真意を理解したのだとカイトは一人頷いた。

2010.02.08 Tuesday 久しぶりに更新

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