US - 02


「っくしぃっ!!」


 プロンテラ南門の前に連なる露店街。
 片隅に店を構えているとはいえ、勢いのいいくしゃみはやはり隣近所に響き渡ってしまった。
 あちこちから聞こえてくる小さな笑い声に、アベルは思わず持っていた工事帽子を目深く被りうつむいた。
「むぅ・・・誰か噂してんな」
「え、どうして分かるの?」
 隣に座る相方スモーキーのポン吉が首をかしげる。
「ウチ風邪引かへんもん」
「あぁ、それってアベルがバk・・・」
「ちゃうわボケ」
 無防備な額にデコピンが決まる。
 人間相手なら容赦なく裏拳を決めるところだが、ポン吉の場合軽く吹っ飛んでいきかねない為、あえて突っ込みはデコピンに留めている。
「じゃあ、何ではっきり言い切れるのさ」
 弾かれた額をさすりながら涙目でアベルの顔色をうかがう。デコピンでもポン吉には十分すぎる突っ込みになるようだ。
「ウチは健康には人一倍気ィ使ってんねん。それだけや」
 痛かったか?ゴメンな、とポン吉の頭を撫でてやる。こうするとポン吉は大抵機嫌を直すことを彼女はずいぶん前から心得ていた。
 ポン吉が心地よさに目を閉じると、どこか寂しげな声が耳に届いた。

「ある人と約束してな、ウチは強くたくましく生き抜かなあかんねん」




US 02





 砂漠の中に存在する街、モロク。
 何をするというわけでもなく時折頬を撫でていく風に吹かれながら、リディアは一人窓を開けて千切れては流されていく雲の群れを見上げていた。
「姐さん、いつまで寝てるんでしょうか・・・」
 数年前、行くあての無かった自分やアベル、そしてディーを拾ってくれた義姉はこの街の片隅に家を構えた。
 どうして彼女が自分たちを迎え入れてくれたのか。それだけは今も聞くことが出来ないでいる。
 いずれ彼女が話すまでは聞かないでおこうと決めたが、やはり気になってしまう。
 単なる気まぐれや同情であるならそれでいい。だが、もし他に・・・・・・
「ご主人様ーっ!!」
 アキラのけたたましい声に意識が現実へと引き戻された。
(私は・・・何を考えていた?)
「何事ですか、アキラ」
 腕に飛び込んできた柔らかい塊をしっかりと抱きとめ、呼吸が落ち着くのを待って言葉をかける。
「えと、鍛冶屋の裏の方に、ちっちゃい女の子が倒れてて・・・今、大佐がそばに付いててます」
「女の子が?」
 おかしな話だ。首都プロンテラほどではないにしろ、モロクもそこそこ大きな街だ。子供が倒れていれば騒ぎになるのは当然のことだ。
 だが、アキラの話では彼と大佐以外は誰も子供の存在には気づいていなかったようだ。
 テロだろうか?いや、それにしては静かだ。
 考えている暇はない。とにかくまずはその子供を保護しなければ。
 留守番をアキラに任せ、リディアは鍛冶屋の裏へと急いだ。しばらく走ると、地面に血の跡が点々と残っているのが見えた。それは鍛冶屋の方まで続いている。
 アキラの話の通り、建物の裏には少女と大佐以外は誰もいなかった。
「遅ぇぞ相棒!」
「すみません大佐」
 言いながらも少女を抱きかかえ、傷の具合を確かめる。
 年齢は6歳くらいだろうか。大きな切り傷が少女の背中を真っ黒なワンピースごと引き裂いていた。
「ひでぇ・・・」
「傷口だけでも塞がないと」
 力を手の平に集中させ、治癒術ヒールを施す。少しして傷は完全に消えたが、少女の顔色は真っ青なままだった。
「どうだ?」
「出血が少々ひどいようです。とにかく家で様子を見ましょう。行きますよ大佐」
「お、おう・・・」
 少女を抱えて家路を急ぐリディアの後ろを、大佐が慌てて追いかけていった。


「全く、必要なものは先に買ってて下さいっていつも言ってるでしょう」
 プロンテラ中心の噴水前で、不機嫌な声が注目の的になる。
「ハイスピードポーション切れてるって気が付かなかったんだよ・・・」
 当の本人たちは通行人たちの好奇と怪訝な視線には一向に気づく様子もなかった。
「もう・・・しっかりしてくださいよ」
「メンゴメンゴ。あ、売ってる露店発見!ちょっと待っててー」
 並んでる商品の中に探している小瓶を見つけ、キラは一目散に露店へと走った。
 後に残されたトキは、呆れるように小さくため息をついた。
 最近は首都を中心に治安の乱れが目立っている。テロや詐欺が横行している為、正直あまり長居はしたくないのだが・・・。
 と、通りの後ろの方から誰かが大勢で騒ぐ声が聞こえてきた。当然それには通行人たちも足を止めて視線を向けた。
 近づいてくるにつれ、彼らが騒いでいるのではなく大勢で歌っているのだと分かる。
「テロの次は合唱団かよ。プロンテラ王室は何やっ・・・て・・・」
 文句を言いながら背後を振り返った瞬間、それ以上は言葉が続かなかった。
 まるで筋肉質な胸板を自慢するように半裸で闊歩する男たち。その中心に見慣れた顔がいたからだ。
 服こそ脱いではいなかったが、どのマッチョよりも声高らかに歌う男BSと女ローグ・・・否、女装ローグ。
 以前世話になった夫婦なのだが、何故マッチョ合唱団を従えて大通りを行進しているのか。
「あああああ、とーきくーーーーん!!」
 自分に気づいたのか、中心にいたBSが嬉しそうな声を張り上げた。
 一斉に周囲の視線が自分に向けられる。
「一緒にうーたーおおおおー!!」
「・・・速度増加」
 自分に支援をかけると、一目散に南門へと駆け出した。
「あ、トキ君見て見てキャンディーがこんなに安く・・・おぅわっ!?」
 案の定露店で油を売っていたキラの腕を掴み、なおも出口へ向かって足を進める。
「どどどうしたのトキ君・・・あれ、後ろから追ってきてるのって、前お世話になった・・・」
「何も見せません何も聞こえませんとにかくどこでもいいから一刻も早くここを離れるんです!!」
「とーーきーーくーーんーーっ」


「何や、大通りの方が騒々しいなぁ。ゆっくり昼寝もでけんわ」
「そもそも露店中に寝ちゃダメでしょ・・・」
 騒ぎを他所に、欠伸を噛み殺していたとき。

『皆忙しいときにすみません、ご報告したいことがあるので、一度戻ってきてもらえませんか?』

 不意に義兄弟たちの耳に、リディアの声が飛び込んできた。
『報告・・・って、何があったん?』
『結論から言いますと、先ほど怪我を負った少女を保護しまして』
『誘拐?』
『拉致?』
『そういえば最近子供を狙った犯罪が多発してますが・・・』

保護したと発言した事実が過去ログにもしっかり残ってますよ?#』
 笑顔に青筋を立てる義姉の顔が目に浮かんだ。
『まぁまぁ、冗談だってば冗談』
 基本的に次女に冗談はあまり通用しないため、早めに切り上げておいた方が身の為だろう。
 こういう時に話を切るのは、大抵世渡り上手なキラの役割である。
『全く・・・とにかく、手伝って欲しいこともあるので皆さんすぐに戻ってきてくださいね?』
『ふあぁーい』
『こっちも振り切れたみたいですね・・・キラさんワープポータル出すのでそこどいてください』
『はいはーい』



「ふぅ・・・」
 頭が痛くなるような会話を終えて一息ついたリディアは、まだ気づいていなかった。
 会話に参加すべき人数が一人足りないということに・・・




 To be continued...


いろいろ設定やら絡めたらとんでもないスケールになりそうです。
シヲルたんネタ出し+出演許可ありがとう^^愛してるぜ。



NeXt


BaCk

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