チャイムが鳴ったと同時に教室から駆け出す。
早く、早く行かなくちゃ。じゃなきゃまた逃げられちゃう!





届かない気持ち






昼休み、全速力で走って目的の教室へ。ガラーっと教室の扉を開けて、ある人の名前を叫ぶように呼んだ。



「功刀せんぱーーーい!」

「惜しい!功刀ん奴ばさっき教室出てったとこっちゃよ」

「うっそ!?また逃げられたとーー!」



上級生の教室で、ガックリと床に手をついて崩れ落ちる。おっといけない、お弁当を床に置いちゃ汚いってば、ダメダメ。



「あと一歩やったとやけどなー。毎回惜しかやなぁ」

「うう・・・そう思うんやったら功刀先輩んこつ引き止めとってくださいよ〜」

「無理。功刀怒らすとばり怖かやけん」



功刀先輩と同じクラスのサッカー部の先輩に 即答で「無理無理無理」と手を振ってそう返される。
うん、確かに功刀先輩は怒ったら怖いだろうけれど。可愛い後輩でありサッカー部唯一のマネージャーである私の為に一肌脱いでやろうとかそういう気持ちは無いですか、先輩。けれど、聞けばまた即答で「無理無理無理」とか言われるんだ。先輩、冷たかー。
今日、これで戦歴は85戦全敗。これは私が功刀先輩に一目惚れしたその日のうちに告白して即答でフラれてからの日数でもある。フラれているのに未練がましいと思うだろうけど、甘い!惚れた男は追いかけ続けて振り向かせるべし。これ、私の持論。
だって、1回くらいフラれたからって諦められる気持ちじゃないもの。確かに一目惚れだけれど、功刀先輩への想いはもっと深くて強くて、毎日毎日好きになっていっている。あのはっきり物を言う男らしさとか常に上を目指す男らしさとか目の光が強くて男らしくて・・・うん、とにかく男の中の男なわけよ、功刀先輩は。これぞ正に九州男児!って感じ。



「諦めるもんですか!今日はここで引き下がったりせんとですよ!絶対昼休み中に功刀先輩ば見つけたるとーー!」

「おー、その意気ったい。頑張りー」



燃える私の後ろでパチパチと拍手される。他人事だと思って・・・くそう。
薄情な先輩は置いておいて、教室の奥で苦笑いを零している人物へと目標を定めて歩み寄った。功刀先輩の事を聞くならこの人しかいないでしょ。



「城光先輩、功刀先輩ば行きそうな場所教えてください」

「ひとりで探すんと違うんか?

「ひとりで探しても見つからんけん聞いとうとです。さあ、素直に吐いてしまってください」

「やー・・・ばってんカズに怒られるしなぁ」

「城光先輩やったら功刀先輩んこつば簡単に宥められるやなかですか!大丈夫です!」

「お前な・・・」

「さあ!教えてください!どこ?どこどこどこですかーー!」

「あー、分かった分かった。叫ぶな、せからしか。カズやったら猫と同じったい」

「はい?猫?」

「そう、猫。猫が好むような場所探してみたらよか」



にっこり笑う城光先輩にコテンと首を傾げてみせる。猫が好む場所?そげんもん私知らんとですーー!
けれど、城光先輩はそれ以上は何を聞いても答えてはくれなかった。くっそう、いいもん、自分で探しますよーだ!
功刀先輩に食べてもらおうと作ってきたお弁当をぎゅっと握り締めて教室を飛び出す。
後ろからは「頑張れよー」と力の無い応援の言葉が聞こえてきたが、本当に応援する気が無いのが明らかでちょっとムカついたり。
どうせ先輩達は私に見込みが欠片も無いとか思ってるんだ。くーーやーーしーーいーー!こうなったら絶対功刀先輩に私の事を好きになってもらうんだもんね。見てろよ、こんちくしょう!



「猫が好む場所ー、って一体どこっちゃろ?ん〜、日当たり良かとことかかなぁ」



廊下を走りつつ考えて、とりあえず暖かそうな場所を探す事にする。となると校舎内ではなく外だろうか。それか屋上。屋上なら日当たり抜群。よし、そこだ!
階段を一気に駆け上がって、ガチャリと扉を開ける。キョロキョロと見渡してみるが、人影は無し。



「おかしかねー、ここと違うと?」



影の方に隠れてるかも?と、とことこと歩いて行くと、びゅうと強い風が吹いた。今の時期の風はとても冷たくて、寒さにガタガタと震えが走る。
ダメだ、こげん寒かとこに功刀先輩は居らんと!ここは×。ハズレー!
急いで屋上のドアを開けてバタンと閉めて、寒さに震える体を自分で抱き締めてゴシゴシと腕を擦った。それくらいに寒いんだ、屋上は。
ダメダメ、寒さに震えとう場合やなか!昼休みはあと残り20分。それまでに功刀先輩を何としても見つけなきゃ!
ダッとその場から駆け出して、今度は校舎の外を探す事にした。外で暖かそうなところといえば、中庭とか部室棟脇のベンチとかその辺だろうか。ええい、どこでもよかけんとにかく探すとー!
勢いこんで探し始める。
しかし、外のどこを探しても功刀先輩は見つからなかった。城光先輩、あげんヒントだけじゃ解らんとですー!
これはもう昼休み中に見つけるのは無理だろうか?ガックリと肩を落として、諦めて教室に戻る事にした。昼休みは、もう残り5分と少し。功刀先輩と一緒に食べたくてまだお弁当を食べていないお腹が、走り回ったせいで「ぐう」と大きな音を出す。
仕方無い。功刀先輩には放課後の部活で会えるんだから、その時まで我慢する事にしよう。
トボトボと教室まで歩いて、中に足を踏み入れたところでペシンと頭を叩かれた。



「いったぁ!いきなり何よ」

「こーら、。今日の昼休みは図書室に返却に来いて言うといたっちゃろ」

「へ?」

「また忘れとうと?朝言うたっちゃろ、アンタが借りてった本ば返却日とうに過ぎとうって」

「あー、ごめんごめん。すっかり忘れとったと」



図書委員のこの真正面で仁王立ちになっている友達に「そういえばそんな事を朝言われたな」と思い出す。
手に持ったお弁当を机の上に置いて、両手で拝むように謝っておく。ゴソゴソと机の中を漁って、奥の方に入り込んでいた図書室の本を取り出せば、またもパコンと叩かれる。



「何でまた叩くとよー!?」

「机ん中に入れとうくらいやったら早ぅ返しなさい!」

「えーん!だけんごめんって言うとうやんー!」

「ったく、ほら。今から返却に行くっちゃよ」

「ええ!?今から!?」

「何よ、何か文句でもあると?」



ジロリと睨みつけられて、「う・・・」と言葉に詰まる。返却をさっさとしなかった自業自得な為に何も言い返せない。ああぁ、お腹空いた・・・。今日はお昼ご飯食べずに残りの授業を過ごさなきゃいけないのか、とガックリと落ち込んだ。
それもこれも功刀先輩が逃げ回るから!一体どこに居るとよ、功刀先輩はーー!
ずるずると友達に引き摺られつつ、心の中で罵倒した。でも好きだー!そんな素っ気無さがまた良いんだよ、悔しいーー!
着いた図書室で、受付に座っている図書委員に本を返却していると、友達が「1冊本借りるけん、ちかっぱ待っとって」と言い置いて、奥の方へと歩いていってしまった。



「ええ!?ちょっ、うちまだお昼食べて無かなんやってば!借りるん後にしよよー!」

「い・や。今借りとかんと放課後部活あるけん、無理っちゃもん」

「酷かー!」

「せからしか!図書室で叫ぶんやなか!」



自分だって大声出してんじゃん。とぶっすーと頬を膨らませた。
友達が戻ってくるのはきっとチャイムが鳴る寸前だろう。それまでこんな入り口のところに立っていたら邪魔になるか、と読む気も無いけれどその辺の本棚の背表紙たちを見ながらほてほてと歩く。
一通り本棚の周りをぐるりと回り、ピタと足を止める。そしてバクバクと心臓が高鳴り出す。
目の前に見えるシルエット。あれは―――



「功刀、せんぱい・・・?」



本棚の影になってあまり人が来ないだろう場所。その傍の、風通しをするためにある唯一の窓。そこから差す太陽の光に照らされた大好きな人の姿に、しばし立ち尽くした。



「こ、げんとこに居ったとや〜・・・」



そっと足を進めて功刀先輩に近寄った。高い場所にある本を取る為の足場となる木の台に座った功刀先輩は、俯いてコクリと舟を漕いでいる。
ここなら日当たりが良い上に、窓を閉めていれば冷たい風も吹かない。よくこんな場所を見つけたなぁ、とくすくすと笑い、感心してしまう。
功刀先輩の前にちょこんと座り込んで、下からじっとその寝顔を見つめた。
そういえば、功刀先輩の寝顔を見るなんて初めてかもしれない。そう思って、これは貴重だ、とくふくふ笑う。
あ、こげんベストショット逃したらあかんと。携帯でコッソリ撮ってしまお。
そう企んで、制服のポケットに入れていた携帯を取り出して、パカッと開く。カメラモードにして功刀先輩にそれを向けた途端、ぐっと手首を掴まれた。



「わっ!?」

「人が気持ちよぅ寝とうとこに何しよるんじゃ」

「え、あれっ!?功刀先輩、起きとったとですか?」

「目の前で不気味な笑い方されたけん、寒気ばした」

「ええー!?ちょっ、それ酷かですよ、功刀先輩!」

「何が酷かじゃ。人の寝顔ば勝手に撮ろうとしとうきさんの方がタチ悪かじゃろ」

「え、えー・・・と。あは?」

「あは?やないわ、こんアホ!」

「ひええん!ごごごめんなさーーい!」

「ったく。没収」

「ああっ!?」



ひょいっと携帯を手から抜き取られ、取り上げられてしまった。あああ、せっかくのベストショットば撮り損ねたと〜!
返してくださいと縋るような視線を向けたが、ふんと顔を逸らして功刀先輩は私の携帯を自分のポケットに入れ込んでしまった。



「うっわ、うち携帯になりたかー」

「何アホなこつ言うとうと」

「あたっ!」



うっかり本音がポロリと口からついて出て、それを聞いた功刀先輩がポカリと頭を叩いた。いや、だってばり羨ましかよ、携帯ってば。功刀先輩の胸ポケットに入れられちゃって、あげん近くに行けるものなら私が行きたい。って・・・変態発言っちゃね、これ。
ジトリと私を睨むように見る功刀先輩に「あはは」と乾いた笑いをしてガックリと肩を落とす。



「で。、お前なしこげんとこ居ると?」

「あ、えっと、本ば返却に来たとです。で、今友達が本借りる言うて探しとって、その間暇やけんウロウロしとったら功刀先輩ば見つけたとです」

「ふうん。なら、今日ばお前、俺ん教室来んかったと?」

「んなわけ無かですやん!しっかり行きましたよー!ばってん、うちが教室ば行った時には功刀先輩逃げた後でしたもん。っていうか、なしいっつも逃げるとですか!?」

「ウザイ」

「ウザ・・・がーん!」

「口で擬音ば言うなや」

「受けたショックば表現しただけですー。ばってん、ウザがられても諦めへんとですよ、うちは!」

「お前も大概しつこか」

「しつこい、結構やなかですか。そんだけ功刀先輩のこつば好いとうってこつです。ね?」

「俺ん迷惑っちゅうのは考えたこつ無かか?」

「う・・・迷惑、ですか?やっぱ」



今まで直接「迷惑だ」と言われた事が無いから、とそれだけを糧に追い掛け続けてきた。言われないのなら追い掛けていても良いのだと、勝手に自分の中で正当化して。
けれど、功刀先輩の口から今言われてしまって、シュンと俯く。自分の想いはやはり迷惑でしかないのか、この気持ちは届かないのか。
自分でも鬱陶しい存在であるという自覚はある。けれど、追い掛けずにはいられなくて。どうしても自分の方を向いてほしくて。だから、追い掛けた。逃げられても追い掛け続けてきた。



「先輩、が・・・迷惑や、っていうなら・・・やめ、ます」



本当は追い掛けるのをやめたくはないけれど、嫌われるのだけは嫌だから。って、もう既に嫌われているのかもしれない。それが当たり前、か。
今までの自分を振り返って、そう思い、更にずーんと落ち込んだ。
どれだけ自分が想いを強めても、届かない気持ち。行き場を失くしたこの気持ちは、どこへ向かえばいいんだろう?
鼻の奥がツンとして、目頭が熱くなる。あ、泣きそう・・・と思った瞬間、ガシガシと頭を撫でられた。



「功刀せん、ぱ・・・?」

「俺が「迷惑や」て言うて、それで諦められる気持ちやったと?」

「ちがっ、違います!そげん簡単になん諦められんとです!」

「・・・なら、どげんする?」

「へ?」

「お前は、はこれからどげんすっと?どげんしたかなんや?」

「追い掛け、たいです。先輩、に・・・振り向いてもらいたか、です」



泣きそうな目にぐっと力を入れて、はっきりと言葉にすれば、功刀先輩はふっと柔らかく笑った。
そうして「やれるもんならやってみろ」と言い放ち、そのまま私の横をすり抜けて、ひらりと軽く手を振った。
それをポカンと間抜けな表情で見送る。



「え、と・・・?やってみろ、て・・・追い掛けて来い、て?追い掛けてよか、て云うこつ?よね?」



ようやく頭が理解して、涙が零れそうだった目からはその雫がスーっと引いて、ぱあっと顔を輝かせた。くるりと体を反転させて、ダッとその場から駆け出す。
勢いのままに図書室のドアを開けて、その先の廊下に見えた後姿に向かって走り出す。



「功刀せんぱーいっ!好いとうですー!」

「アホっ!そげん大声で叫ぶなーー!」



功刀先輩の方が声でかいですよ、と満面の笑顔を浮かべて飛びついた。
猫は気紛れ、自分の感情のままに行動する。そして、日向ぼっこのお昼寝が好き。あ、これかな、城光先輩が言うとったんは。うん、功刀先輩って猫にそっくりだ。
ぎゃいぎゃいと文句を言うのも、構われすぎてちょっとウザったがって毛を逆立てる猫の仕草と一緒かも。そう思って、「何だか可愛いな」なんて、くすくすと笑いが零れる。
そんな私を引き剥がそうとするその手が、何だかいつもよりも力が弱いような気がしてもっと嬉しくなる。私が浮かれていただけで、そう錯覚しただけかもしれないけれど。


ちょっとは私の気持ち、届いたのかな。いつか、いつか絶対に振り向いてくださいね。
そう想いを込めて、もう1度「大好きです」と告げた。

あ、功刀先輩。あとで携帯ちゃんと返してくださいね?





→「39# 明日への希望」に続きます。



2006.12.06初出 2007.01.03転載

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