なんで、
なんて分かりきってたこと


どうして今更思い出したりするんだろう


もう、嫌だ
嫌と言うほど分かりきっていたことなのに

身に染みていたはずなのに、どうして



私が


この世界では邪魔なんだって









わかりきってた ことなのに








第2夜『再確認』









ドック、ドックン



心臓がやけに早く感じるのはきっと気のせいなんかじゃないだろう

リナリーが心配そうに顔を覗きこんでいるのも
私の顔色が悪いせいなんだろう

自分の事なのに、客観的にそう感じてしまうほど頭のどこかが醒めている


それなのに、心臓が煩い







、私あの子のこと迎えに行ってくるけど・・・」

「あ、うん」





あの子、と指し示された白髪の少年を見る

銀灰色の瞳
金色のゴーレム

見ているだけで何かが分かりそうなのに自分では何も思い出せない





「・・・大丈夫?」

「平気だって」


「そんな顔してないけど・・・」




心配そうに私の額に手を当てるリナリー

そっとその手を除けてにっこりと微笑む






「ほら、早くしないとあの子ユウの餌食になっちゃうよ」

「餌食って」



くすっとリナリーが笑みを零すと
それもそうね、と彼女はゆっくり微笑み返し、彼を迎えに行くべく駆けて行った






ドクン、ドクン





嗚呼 もう


煩い

五月蝿い



キリ、と胸の辺りが痛んだ気がした
でも、そんなのは気のせいだった


音だけが私を支配している

胸を押さえても音は止まらない






「っう・・・」





突然、吐き気がした








気持ち悪い



ドクン、ドクッ





五月蝿いったら

やめて



ドク、ドク、ドク ドック ッドック






や め   て









「っ、ちゃん!?」



気がついたら私の異変に気づいたコムイさんが背中を擦っていた
生理的なのか目から涙も溢れている



「大丈夫かい?」



大丈夫です、という言葉も言葉にならず
ただただ私は首を縦に振っていた






「少し横になって」

「だい、じょぶです・・・部屋にもどってもいいですか?」


「一人じゃ心配「へいきです」






コムイさんが何か答える前に私は自分の部屋へ続く廊下へと歩き出した

何かコムイさんが後でいっている気がしたけれど
それすらもよく分からなかった


少し、息切れもしている




(本格的に、きつい、かも・・・)




ユウの前だったらこんな姿絶対に見せられないな、と苦笑しながら
何時も感じる痛みと少し違うことにも私は気づいていた



なんでだろう


何時もよりも痛みは少ない

けど、眩暈と動悸の激しさが今までとは比べ物にならない





鍵をやっとの事で差し込んでドサリとベッドに倒れこむ
シーツの海に身を沈めても気持ち悪さは増すだけだった






目を閉じた


真っ白な世界に誘われた――――・・・・










+ + +











目を開ければ

そこは真っ白だった




「・・・あれ?」





夢?

ここは、どこ・・・








「こんにちはぁ♪」


「!!!!」






頭に響いてくる声に聞き覚えがあった

此処は



一度だけ来た事がある






「どうやら覚えているようね・・・」



相変わらず声しか聞こえないが
独特の喋り口調に思わず頬が緩む





「あなたは、『主任』さん?だったけ」

「あら、良い子ね。よく覚えてました♪」






そう、此処は・・・




「私が、『あっち』の世界から『こっち』の世界に来る前に来た場所、・・・」




くすくすと主任が笑いながらピンポーン、と正解音を口にする







「会えて嬉しいわ・・・・ 




カッと光が零れたかと思って目を瞑る
眩しいが、その光は直ぐに消え代わりに目の前に人が現れた


黒髪をなびかせる
美しい人

それが『主任』であることは明らかだった




(なんでだろう)



私は『主任』であるこの人に出会う前に、ずっと前からこの人を知っていた気がする

なんで・・・




しかし、その疑問はすぐに主任の声によって消される






「この姿で会うのは初めてよね?

「はい。お綺麗なんですね」



そう誉めると主任はふふっと笑って肩をすくめて
でも、満更でもなさそうにそうね、と続ける






「お世辞が上手いのね。ふふっ、私は年を取らないからね」

「どうして?」



聞いた瞬間に随分子供染みた質問をしてしまったと思った

が、主任は考え込むように顎に手を当てて
それからゆっくりと言葉を噛み砕くように話す





。此処はね、『アナタ』の世界と『アチラ』の世界の狭間なの」

「・・・狭間・・・」




「そう。世界は一つと思われている。

 だけどね。

 
 世界は一つではないと知っているものにとっては無数に存在しているものなのよ」



「・・・・」


「よく、分からないかしら?」





目を合わせてゆっくりと首を横に振った


完全に分かったわけではないけれど
だからといって全然分からないわけじゃない。

私がユウに出会えた世界、それだけでその証拠には十分なりえたと思うから。






「記憶は、貴方・・・主任が持っていったの?」

「そうよ」


「返してはくれない?」

「出来ない相談ね。どうしてだか、分かるでしょう?」





はっきりと即座に断られてそらそうだ、と納得する

ここで記憶が戻ったのなら
きっと私は物語の中身を大幅に変えてしまうかもしれない

そもそも私が此処に来た時点で
何処かの誰かの人生を狂わせるかもしれないというリスクがあるのだ



でも






「・・・どうして、私が此処に来たのか分からないんです」


「・・・」







此処にきたときから

抜けた記憶




私が此処に居る、意味が分からない




「怖いんです・・・私が、此処にいて良いのか、分からなくて」




主任が目を細めて
私を見つめているのが分かる

視線が私の体を射抜くみたいだ






「・・・理由なんて、後付されるものよ」



でも、と冷静な声音で私に主任は私に淡々と告げる







「物語は、動き出したわ」


「っ・・・!」



「迷っている暇も、立ち止まっている暇も、貴方には無いはずよ?」

「・・・でもっ!」


「理由なんて大層なこと、

 考えてる暇が有るなら



 少しでも前進することね」




「・・・・」




「私は、それを告げに来たの。連れ戻しにきたわけじゃ無いわ」





それを聞いて、少し安心した


(まだ、帰らなくて良いんだ)

でも、永遠に帰らなくて良いと決まったわけでもない




顔を上げる




「いつかは、帰らなくちゃいけないの・・・?」





一番聞いてみたかったこと

この世界での、私の意味が分からなくても分かっても
いつかは此処から消えてしまうのだろうか


あの人の温もりだけを残して






主任は小さく首を振って、暗に答えられないという仕草をした




「もうお別れの時間ね」

「ねぇ、教えて」




「じゃぁね、


「ねぇったら!!」





叫んでも主任は首を振るばかりで何も答えてはくれない
主任はどんどん遠ざかっていく

手を伸ばしても届く気もしない






「あ なた・・・な 、だ・・・」

「聞こえない・・・」



「 きっ・・・  どこ・・・   から」



「聞こえないよ・・・っ・・・教えてったらぁ!!!!








叫んだ




私の声は 届いてるんだろうか









+ + +





「っは・・・!」






息を呑んでシーツの海からびょんと反り返るように起きた

息が荒い
体が酷く疲れていた




「・・・ひっどい夢・・・」





夢なんかじゃないのはとっくに分かっていた

かたかたと全身が震える



底無しの沼に
あるいは光の見えない洞窟に

深い闇に

体を丸ごと飲み込まれてしまうような感覚



ぶるりと震える






「・・・っ」




ふらりと外へ出ると廊下の先、
100メートルほど離れたところにユウが見えた

六幻を持っているから修練場に行くのかもしれない



かたかた音をたてているような体のまま、私は彼の元へ一目散に走り出す



何を考えているのか自分でも分からなかった
ただ、温みが欲しくて






「っ!か・・・?」

「ユウっ!!」




ユウがこちらの気配に気づき振り返ったときには
もうユウの背中にしがみ付いていた





「どうした」

「っは、は・・・・・・」




走ったせいで息が切れる
それでも寒気が止まらなかった

ユウの背中が温かかった








「・・・何があった?」

「な、んでも、ない・・・っ」




呆れたようにユウが溜息を吐き

人目がちらちらとこちらに注がれているのに気がつくと
こっちだ、と私を廊下の影に誘導した


肩を掴まれて

目を覗き込まれる






「何があった」


「何でもないよ・・・?」

「んな顔して何でもねぇわけあるか!!」





何て言ったら良いのか、わからない


何を話して良いのかも

何から話せば良いのかも




嗚呼





話すことすら 出来ないのだけれど








「なんでもないよ・・・なんでも、ないから」






ユウにもう一度しがみ付く








「ちょっとだけ、こうしてていい?」






自分の頭をユウの胸に凭れかけさせた

彼の、心臓の音が聞こえる



ユウは舌打ちを小さくして
だけどその行動とは裏腹に頭をそっと撫でて腕を強く抱きしめた






この音が

この温もりを感じる事が出来ることが、




私が此処にいる証明だから

















あとがき

彼女に主任が訪れました
主任の存在はまた暫く出てきませんが、また追々説明できたらと思います。




09.12.11
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